令和7年度の税制改正の内容が発表されました。今回の改正では、物価上昇への対応や中小企業支援の継続など、事業者の皆様や従業員の方々に直接関わる重要な変更が含まれています。
この記事では、串本町の事業者の皆様に特に関係の深い改正内容を分かりやすくご説明します。具体的には、以下のような内容について、実例を交えながら解説していきます。
- パートタイム従業員の収入に関する「103万円の壁」の見直し
- 学生アルバイトを雇う事業者に影響のある新しい控除制度
- 設備投資を支援する税制措置の延長・拡充
- 法人税の軽減措置の継続 ・事業承継に関する要件の緩和
特に、観光業や小売業を営む事業者の方々にとって関心の高い、パートタイム従業員の収入に関する改正は、実務に大きく影響する可能性があります。
なお、この記事でご紹介する内容は、令和7年(2025年)から実施される予定です。具体的な対応については、税理士等の専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
◆令和7年度の税制改正大綱についてはコチラを御覧ください
次の項目から、それぞれの改正内容について詳しくご説明していきます。
給与所得者の収入に関する重要な変更点(新設)
「103万円の壁」の引き上げ
パート従業員の方の収入に関する大きな変更点として、いわゆる「103万円の壁」が緩和されることになりました。具体的には、以下のような変更が予定されています。
- 基礎控除の引き上げ
- 現行の48万円から58万円に引き上げ
- これにより、所得税の負担が軽減されます
- 給与所得控除の見直し
- 最低保障額が現行の55万円から65万円に引き上げ
- 配偶者の扶養から外れる収入の基準も引き上げられます
《具体例で見る影響》 例えば、パートで働く従業員の方が年収150万円の場合:
- 現行制度:基礎控除48万円、給与所得控除55万円
- 改正後:基礎控除58万円、給与所得控除65万円 ⇒ より多くの控除を受けられるようになります
大学生アルバイトの新しい控除制度
19歳から22歳までの大学生等のアルバイト収入についても、新しい制度が導入されます。
- 新しい特別控除の内容
- 給与収入が150万円(合計所得金額85万円)までは、親の税金計算で63万円の控除が受けられます
- 収入がそれを超えた場合でも、段階的に控除額が設定されます
- 制度開始時期
この改正により、観光業や飲食業など、学生アルバイトを多く雇用している事業者の皆様は、より柔軟な勤務時間の設定が可能になると考えられます。
事業者の皆様へのお願い
これらの改正は、給与計算や源泉徴収事務にも影響があります。改正に備えて、以下の点についてご確認ください。
- 給与計算ソフトの更新
- 従業員の皆様への周知
- 新しい控除制度への対応準備
なお、これらの改正内容の詳細や具体的な実務対応については、今後さらに詳しい情報が公表される予定です。税理士等の専門家に相談し、適切に対応することをお勧めします。
設備投資を応援する制度が延長・拡充されました
中小企業経営強化税制の拡充(2年延長)
生産性向上のための設備投資を支援する「中小企業経営強化税制」が、内容を拡充して2年延長されることになりました。
- 制度の基本的な内容
- 対象設備を導入した場合、即時償却(取得価額の100%)または税額控除が選択できます
- 税額控除率:資本金3,000万円以下の企業は10%、3,000万円超の企業は7%
- 今回の拡充ポイント 《売上100億円を目指す企業向けの支援強化》
- 新たに「建物」が対象設備に追加
- 建物の場合の特別償却率:最大25%
- 建物の場合の税額控除率:最大2% ※賃上げの実施状況に応じて控除率が変動します
《活用例》 串本町の観光宿泊施設が客室を改装する場合:
- 改装費用2,000万円の場合
- 特別償却なら最大500万円分の経費計上が可能
- 税額控除なら最大40万円の税負担軽減 ※具体的な金額は、実際の設備投資内容や企業の状況により異なります
固定資産税の特例措置(2年延長)
生産性向上のための設備投資を行う場合、固定資産税が軽減される特例も延長されます。
- 制度の内容
- 対象:機械装置、工具・器具・備品、建物附属設備など
- 軽減期間:最大5年間
- 軽減率:賃上げ要件により変動
- 1.5%以上の賃上げ:課税標準を1/2に軽減
- 3%以上の賃上げ:課税標準を1/4に軽減
- 活用のポイント
- 設備導入前に「先端設備等導入計画」の認定が必要
- 賃上げ計画も合わせて策定することがポイント
これらの制度は、コロナ禍からの回復期における事業の拡大や、生産性向上のための設備投資を検討されている事業者の皆様にとって、有効な支援策となります。
実際の活用に際しては、事前の計画策定や申請手続きが必要となりますので、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
法人税の軽減措置が継続します
中小企業向けの法人税の軽減措置が2年間延長されることになりました。ただし、今回の改正では一部の企業で税率が変更となりますので、ご注意ください。
■法人税の軽減税率とは?
中小企業の年間所得のうち、800万円以下の部分について通常の法人税率(23.2%)より低い税率が適用される制度です。
《軽減税率の内容》
- 所得金額が年10億円以下の企業
- 年間所得800万円以下の部分:15%
- 年間所得800万円超の部分:23.2%
- 所得金額が年10億円を超える企業(改正により税率変更)
- 年間所得800万円以下の部分:17%(改正前:15%)
- 年間所得800万円超の部分:23.2%
■具体的な計算例
【例1】年間所得が600万円の場合
【例2】年間所得が1,000万円の場合
- 800万円以下の部分:800万円 × 15% = 120万円
- 800万円超の部分:200万円 × 23.2% = 46.4万円
- 合計税額:166.4万円
※これらの税額は法人税のみの計算例です。実際には事業税や住民税なども合わせて納付する必要があります。
■適用対象となる法人
以下の法人が対象となります:
- 資本金1億円以下の法人
- 資本金が5億円以上の法人の100%子会社ではない法人
- 複数の大規模法人から出資を受けていない法人
■注意点
- この軽減税率は令和9年3月31日までの時限措置です
- 所得金額が年10億円を超える企業は、税率が15%から17%に引き上げられます
- 青色申告を行っている法人が対象です
制度の詳細や、ご自身の会社が対象となるかについては、税理士等の専門家にご確認いただくことをお勧めします。
事業承継がよりスムーズに
事業の後継者への引継ぎをより行いやすくするため、事業承継税制の要件が緩和されることになりました。
■事業承継税制の要件緩和のポイント
《これまでの要件》
- 株式の贈与を受ける後継者は、贈与を受ける3年前から役員である必要がありました
- そのため、令和6年12月末までに役員に就任していないと特例を使えない状況でした
《改正後》
- 「贈与を受ける直前に役員であること」に要件が緩和されます
- 3年以上の役員就任期間は不要になります
■この改正のメリット
- より柔軟な事業承継の計画が可能に
- 後継者の役員就任時期を柔軟に決められる
- 急な事業承継の必要が生じた場合にも対応可能
- 後継者の育成期間の確保
- まずは現場での経験を積ませることが可能
- 役員就任のタイミングを後継者の成長に合わせられる
■活用を検討すべき事例
以下のような事業者の方は、特に検討をお勧めします:
- 事業承継を検討しているが、後継者がまだ経験不足
- 複数の後継候補がいて、人選に時間が必要
- 事業の将来性を見極めてから役員就任を決めたい
■留意点
- この特例の申請期限は令和9年12月末までです
- それ以降の事業承継支援策については、現在検討中です
- 税理士等の専門家に相談しながら、計画的に準備を進めることをお勧めします
事業承継は会社の将来を左右する重要な局面です。この機会に、御社の事業承継計画を見直してみてはいかがでしょうか。
インボイス制度について
令和5年10月から開始されたインボイス制度について、今回の税制改正では特段の変更点は盛り込まれませんでした。ここでは、改めて重要なポイントを確認させていただきます。
■現在の対応状況確認
- 登録番号の取得
- すでに登録している方:登録番号の取引先への周知は済んでいますか?
- まだ登録していない方:事業の実態に応じて登録の必要性を確認しましょう
- 課税事業者になる必要があるか
- 免税事業者のまま取引を継続できるか
- 請求書・領収書の対応
- 記載事項は揃っていますか?
- 登録番号
- 税率ごとの消費税額
- 「軽減税率対象」の表示(対象品目がある場合)
■今後の対応ポイント
- インボイス発行側の対応
- 取引先から求められたらすぐに対応できるよう、請求書の様式は整えておく
- 複数税率の記載ミスに注意
- 返品や値引きの際の処理方法を確認
- インボイス受け取り側の対応
- 仕入先がインボイス発行事業者かどうかの確認
- 受け取ったインボイスの保存(電子データ可)
- 仕入税額控除の要件確認
■特に注意が必要な事業者
- 個人タクシー・運送業者
- 農家・漁業者
- フリーランス
- 副業・複業をしている方
これらの方々は、取引先との関係で登録を求められるケースが多いため、早めの確認・対応をお勧めします。
■今後の予定
令和5年10月の導入から令和11年9月までは、免税事業者等からの仕入れについて、一定の経過措置が設けられています。ただし、段階的に控除率は引き下げられていきますので、計画的な対応が必要です。
※インボイス制度への対応は、事業の形態や取引先との関係によって異なります。不明な点がありましたら、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
まとめ
令和7年度の税制改正では、特に以下の点について、串本町の事業者の皆様に関係の深い改正が行われます。
■給与所得者の収入に関する改正
- 「103万円の壁」が緩和され、パート従業員の方がより柔軟に働ける環境に
- 大学生アルバイトの扶養控除に関する新制度の導入 これらの改正により、人手不足に悩む観光業・サービス業の方々にとって、従業員の採用・勤務時間の調整がしやすくなると期待されます。
■設備投資支援の継続・拡充
- 中小企業経営強化税制の延長と拡充
- 固定資産税の特例措置の継続 特に、観光施設の改装や店舗の設備更新を検討されている方は、これらの制度の活用をご検討ください。
■事業承継の要件緩和
後継者の役員就任要件が緩和され、より柔軟な事業承継の計画が可能になります。
今回の改正の多くは、令和7年(2025年)から実施される予定です。実際の対応に当たっては、改正の詳細が政省令等で定められることになりますので、税理士等の専門家に相談しながら準備を進めることをお勧めします。
また今後、各制度の具体的な手続きや必要書類等について、国税庁等から詳しい情報が公表される予定です。 人口減少や観光客の動向など、地域経済を取り巻く環境は依然として厳しい状況が続いていますが、これらの支援制度を上手に活用することで、事業の発展につなげていただければと思います。