6月の特集記事は事業承継です。
事業を後継される方たちは、町の未来を担っていかれる大切な存在です。
事業承継が円滑にすすむことは、当事者だけでなく、私たちも含めた関係者みんなが願っていることです。
今回は、事業を承継される方が将来負担する相続税の税金対策、その中でも「生前贈与」について、その概要を個人事業主の方に向けて説明していきます。
使用貸借
まずは「使用貸借」についてです。
「使用貸借」って何?
「使用貸借」とは「他人が所有しているものを無償で借りること。」を言います。事業承継で言うと、代表者の事業資産(土地、店舗、事業用車両)を後継者に無償で貸し付ける方法です。
使用貸借のメリット
- 贈与税が発生しません。
- その土地や建物から発生した固定資産税や修繕費は後継者の必要経費にできます。
代表者名義の事業資産(店舗、事業用車両など)を後継者に無償で渡すと高額の贈与税が発生することがあります。
使用貸借を利用すると事業承継時にその負担を避けることができます。
使用貸借契約は口頭でも成立します。
ただ、将来もめることがないように使用貸借契約書を作成しておくことをお薦めします。
暦年贈与
次は「暦年贈与」についてです。「れきねんぞうよ」と読みます。
「暦年贈与」って何?
- 1月1日から12月31日まで(暦年)に受けた贈与の合計額に課税する方式です。
- 年間110万円の基礎控除があります。
暦年に受けた贈与額が110万円以下であれば、贈与税が発生しないことになります。このメリットを利用して長年にわたって後継者に贈与していくと相続税の節税になります。
- 相続時には死亡前3年以内に贈与されたものは、相続財産に加算して相続税を計算します。(令和5年12月31日の贈与分まで)
定期贈与は気をつけて!
あらかじめ贈与する金額を決めて贈与した場合は定期贈与とみなされ、贈与税が発生します。
例えば、贈与する金額を1000万円と決めて10年にわたって贈与した場合、暦年の贈与は100万円で基礎控除内の金額ですが、1000万円が贈与されたものとみなされ、1000万円についての贈与税を支払うことになります。
相続時精算課税
そして「相続時精算課税」(そうぞくじせいさんかぜい)です。
「相続時精算課税」って何?
- 「相続時精算課税」は選択するには「届出」が必要です。
- 選択すると累積2500万円までの贈与ならば贈与税はかからない制度です。2500万円を超えた分には、20%の贈与税がかかります。
- 「暦年贈与」と違って、贈与する側と受ける側に条件があります。
・贈与者(贈与する側)が60歳以上。(贈与した年の1月1日時点で)
・受贈者(受け取る人)が18歳以上。(贈与を受けた年の1月1日時点)
・贈与する人と受け取る人の関係が、親と子または祖父母と孫
- いったん、相続時精算課税を選択すると暦年贈与が使えなくなり、少額の贈与でも申告する必要が出てきます。
- 贈与した人が亡くなった時は、贈与した財産を相続財産に加算する必要があります。つまり相続財産の前渡しをしていることになります。相続時に加算される金額は贈与時の評価額となります。
税制改正で生前贈与のルールが変わります。
2023年に相続税の改正が決定されました。2024年以降に適用される改正ポイントについて説明いたします。
「暦年贈与」の改正点
- 相続財産の加算期間が3年から7年に延長されます。
今まで、死亡前3年以内に贈与されたものは、相続財産に加算して相続税を計算しておりました。今回の改正により、死亡日から7年以内に贈与されたものまでが、相続財産に加算されるようになります。
- 2024年1月1日の以降、すぐに7年に延長されるのではなく、段階を経て適用されるようになります。
「相続時精算課税」の改正点
- 毎年110万円までの贈与であれば、相続時に相続財産に加算されません。
今までは、相続時精算課税を選択した場合、少額の贈与であっても申告が必要でしたが、この必要がなくなりました。
- 土地や建物が災害で一定以上の被害を受けた場合は、相続時に再計算します。今までは、相続時に加算される金額は贈与時の評価額でした。
生前贈与と消費税
- 個人事業主の場合、課税売上が1000万円を超えると課税事業者になります。課税事業者になっても納付するのは2年後になります。
- 個人事業主が事業を承継する時、先代の事業は廃止。後継者は新たに開業届を出すことになります。従来はこの2年間は免税事業者でしたが、インボイス制度ができて状況が変わってきています。
令和5年10月1日開始【消費税インボイス制度】まとめ
まとめ
事業承継は大きな事業計画です。前もって準備することに越したことはありません。生前贈与についても時と場合によってはメリットとデメリットの状況が変わってきます。
事業承継を考えられている方は今から準備を始めませんか。様々な支援制度があります。どこから手をつけて良いのかわからないと悩んでいる方は、商工会にご相談ください。(経営指導員 吉村牧子)