
「最近、人を雇うのが難しくなったなぁ…」 商売を営む皆さんの口から、そんなため息交じりの言葉をよく耳にします。 さらに頭が痛いのが、和歌山県の最低賃金です。毎年10月に改定され、年々上がり続けています。「うちは昔からの時給のままだよ」という方は、一度確認してみてください。もし現在の最低賃金を下回っていたら、それだけで法律違反になってしまいます。
人手不足やコスト増も深刻ですが、それ以上に経営者を悩ませているのが、近年相次ぐ「労働基準法および関連法の改正」です。「うちは小さな店だし、難しい法律なんて関係ないよ」と思っていませんか? 実は、近年の法改正は、これまで猶予されていた中小・小規模事業者に対する「特例」を撤廃し、大企業と同じ厳しいルールを適用する方向に大きく舵を切っています。
「退職したパートさんから未払い残業代を請求された」 「『契約書がない』と労働基準監督署に駆け込まれた」
これらは、事業主が「法改正」を知らなかったために起きた悲劇です。 この記事では、労働基準法をはじめとする法律が具体的にどう変わり、私たちの経営にどう直撃するのか、そのポイントを「3つの急所」として解説します。 かなり踏み込んだ内容になりますが、あなたのお店を守るために必要な知識です。ぜひ最後まで目を通してください。
目次


まず、最もお金に関わる大きな変更点です。 これまで、中小企業には「月60時間を超える残業割増賃金」について猶予措置がありました。しかし、労働基準法の改正により、2023年4月からこの猶予が廃止されました。
どういうことかと言うと、月60時間を超える残業をさせた場合、支払うべき割増賃金率がこれまでの「25%」から、大企業と同じ「50%」に引き上げられたのです。
「月60時間なんて、うちは関係ない」と思われるかもしれません。しかし、以下のようなケースは要注意です。
もし従業員とトラブルになり、労働基準監督署が入った場合、正確な労働時間の記録がないと、会社側は非常に不利な立場に置かれます。その結果、過去に遡って1.5倍(50%増)の残業代を支払うことになり、数百万円の出費となるケースも珍しくありません。
もし、基本給の設定が低く、計算してみたら時給が「和歌山県の最低賃金」ギリギリだった場合、さらにリスクが高まります。残業代の計算基礎となる時給が最低賃金を下回っていると、「最低賃金法違反」と「未払い残業代」の二重の違反となり、支払額が膨れ上がります。

残業代以前の問題として、絶対に確認していただきたいことがあります。 「36協定(時間外・休日労働に関する協定届)」を、労働基準監督署に提出していますか?
実は、この書類を出さずに従業員(パート含む)に1分でも残業をさせること自体が、法律違反(労働基準法第32条違反:6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)になります。「残業代さえ払えばいい」というわけではありません。
「え、出した覚えがない…」という方は、今すぐ商工会にご相談ください。これが「労務コンプライアンス」の第一歩であり、事業を守るための最低限の防波堤です。

「うちは難しい契約書なんて交わしてないよ、口約束だよ」 「採用の時に『時給〇〇円』と書いたメモを渡しただけ」
そんな事業所さんも多いかもしれませんが、これは2024年4月の「労働基準法施行規則」の改正により、明確にリスクが高まりました。 この改正で、採用時に渡す「労働条件通知書(雇用契約書)」に記載しなければならない項目(明示事項)が追加されたのです。
【改正で追加された必須項目】
これまでは「今の仕事内容」だけ書けばOKでしたが、これからは「将来変わるかもしれない範囲」まで書くことが義務付けられました。 もしこれを書かずに、「人手が足りないから来月からあっちの店に行って」と命令した場合、従業員から「契約書に書いていない(労働条件の明示義務違反)」として拒否されたり、契約違反を問われたりする可能性があります。
「もう雇っている人には関係ないでしょ?」と思っていませんか? このルールは、2024年4月1日以降に締結・更新される契約から適用されます。
つまり、期間の定めのあるパートさんの「契約更新」のタイミングが来たら、この新しいルールに対応した契約書を結び直さなければなりません。 「昔作った契約書のひな形」を使い回して更新手続きをしている事業所は、知らず知らずのうちに法律違反を犯していることになります。今すぐ見直しが必要です。

労働基準法と並んで重要なのが、「育児・介護休業法」の改正です。 「ギリギリの人数で回しているから、急に休まれると困る」というのが本音かと思いますが、法律は「働く人の休む権利」を強化し続けています。
2025年4月からの主な変更点:

さらに忘れてはいけないのが、年次有給休暇です。 「うちはパートさんばかりだから有給はないよ」「忙しいから有休なんて取らせられない」と思っていませんか?
2019年から、「年10日以上の有給休暇が付与される労働者(パート含む)に対し、年5日は確実に取得させること」が企業の義務になっています。 これに違反すると、なんと従業員一人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。従業員が5人いれば、最大150万円です。
これからは、「休ませない」ことで店を回すのではなく、「誰かが休んでも法律通りに対応できる体制(多能工化など)」を作ることが、経営者の義務となります。

ここまで読んで、「やることが多すぎて頭が痛い…」「もう手遅れかもしれない」と不安になった方もいらっしゃるかもしれません。 労働基準法をはじめとする法改正は待ってくれません。「知らなかった」では済まされない段階に来ています。
しかし、本業で忙しい皆さんが、これら全てを自力で把握し、完璧に対応するのは不可能です。 だからこそ、一人で抱え込まず、私たち商工会を頼ってください。

法改正への対応は「コスト」ばかりではありません。国も、対応する事業者を支援するための助成金・補助金を用意しています。
これらを活用すれば、法改正対応と同時に、経営体質を強くすることができます。

ここまでの内容で、一つでも「ドキッ」としたことがあれば、それは相談に行くべきサインです。
そんな方は、ぜひ串本町商工会の窓口へお越しください。 串本町商工会では月に1回、「和歌山働き方改革推進支援センター」から社会保険労務士(社労士)の先生を招いて、特別相談会を開催しています。
普段、社労士の先生に個別に相談すると相談料がかかるような専門的な内容も、この相談会なら無料で、じっくりと相談できます。 法改正の詳細や、あなたのお店に合わせた対策について、プロの視点からアドバイスを受けられます。
「転ばぬ先の杖」として、ぜひこの相談会を活用してください。日程や予約については、商工会までお気軽にお電話くださいね。
