
こんにちは、串本町商工会の経営指導員上松です。
近年、インボイス制度の導入や電子帳簿保存法への対応など、町内の事業者の皆さんも懸命にデジタル化に取り組まれています。新しいシステムに挑戦するその姿勢は、本当に素晴らしいものです。
しかし、その「変化の時期」を狙う悪質な詐欺が、ここ串本町でも確実に増えています。 会員の皆さんからも、「パソコンに変な画面が出た」「身に覚えのない請求が来た」といった相談を受けることが多くなりました。
「うちは田舎の小さな店だし、大金もないから狙われないよ」 そう思っていませんか?
実は、詐欺グループにとって、会社の規模や場所は関係ありません。 彼らはインターネットを使って、無差別に、そして機械的に罠を仕掛けています。特に、セキュリティの専門家がいない小規模事業者や、ITに少し苦手意識がある高齢の経営者様が、標的になりやすい傾向にあります。
この記事では、2025年現在、特に被害が多い最新の詐欺手口を、詳しく解説します。 「敵の手口」を知ることが、最大の防御です。少し長くなりますが、大切な会社と資産を守るために、ぜひ最後までお読みください。

目次

パソコンで仕事をしている時や、ニュースサイトを見ている時、突然「ビー!ビー!ビー!」とけたたましいブザー音が鳴り響いたことはありませんか?
そして画面いっぱいに、以下のような警告が表示されます。
これは、いま全国で最も被害が多い「サポート詐欺」という手口です。
この詐欺の怖いところは、「偽物の緊急事態」を演出して、パニックにさせる点です。
画面には、解決策として「マイクロソフトサポートへ電話してください」と、電話番号が大きく表示されます。 しかし、これはすべて嘘です。
実際にはパソコンは壊れていませんし、ウイルスにも感染していません。表示されているのは、単なる「驚かすための画像」です。
もし電話をかけてしまうと、片言の日本語を話す「偽のオペレーター」が出て、遠隔操作でパソコンを操られます。最終的に、「修理代」として数万円〜数十万円分の電子マネー(Google Playカードなど)をコンビニで買ってくるよう指示されます。
最近は「+1」(アメリカ・カナダ)や「010」から始まる国際電話番号が表示されるケースが急増しています。「050」などの見慣れた番号ではなく、「+」がついた見慣れない番号には特に注意してください。
最近は電話させずに、「修正するにはここをクリックして、コードを貼り付けてください」と画面に指示が出る手口(ClickFix)も増えています。指示通りに操作すると、自分で自分のパソコンにウイルスを入れてしまうことになります。画面の指示には一切従わないでください。
サポート詐欺の延長や、間違い電話を装って「警察官」を名乗る人物から連絡が来るケースが増えています。
手口: LINEなどのビデオ通話に誘導され、制服姿の警察官(ニセモノ)が画面越しに偽の逮捕状や警察手帳を見せ、「あなたの口座が犯罪に使われている。資金調査が必要だ」と送金を要求します。
ここを見て!: かかってきた電話番号の末尾が「0110」になっている場合がありますが、これも偽装です。頭に「+」がついた番号で警察から電話が来ることは絶対にありません。
対策: 警察がビデオ通話で取調べをしたり、逮捕状を見せたりすることは100%ありません。「ビデオ通話で話をしよう」と言われたら、即座に詐欺だと判断して切断してください。
もし警告画面が出ても、慌てないでください。あなたのパソコンは無事です。

スマートフォンに届くショートメッセージ(SMS)やメールも、危険がいっぱいです。 本物そっくりの偽サイト(フィッシングサイト)に誘導し、IDやパスワード、クレジットカード情報を盗み出す手口です。
これらはすべて詐欺です。国税庁や税務署が、個人の携帯電話に「税金を払え」というメールを送ることは絶対にありません。
メールだけでなく、電話を使った手口(ボイスフィッシング)も増えています。 大手銀行だけでなく、なじみのある地方銀行を名乗るケースも増えています。
これを信じて『1』を押すと、偽サイトへ誘導され、法人口座の暗証番号などを盗まれてしまいます。 銀行が「自動音声」で重要なお知らせを電話してくることはありません。「ピーッ」と聞こえたら、すぐに切ってください。
「【佐川急便】宛先不明で持ち帰りました」といったメールも定番ですが、使っているスマホによって攻撃方法が変わります。
自社の商品をネットで販売されている方に、非常に重要な連絡です。
2025年3月のガイドライン改訂により、ネットショップ(ECサイト)での「EMV 3-Dセキュア(本人認証サービス)」の導入が義務化されました。
もし、お使いのカートシステムや決済代行会社がこれに対応していない場合、契約解除や被害額負担(チャージバック)のリスクがあります。
【新たな脅威:Webスキミング】 また、ECサイト自体が改ざんされ、お客様のカード情報が盗まれる「Webスキミング」も流行しています。 対策: 管理画面(WordPressなど)のパスワードを長く複雑にする、不要なプラグインは削除するなど、セキュリティを強化してください。

これは会社対会社のやり取りで発生する、非常に危険な詐欺です。 取引先や仕入先の担当者になりすまし、「請求書の振込先変更」を依頼してくる手口です。
以前は、「文章が少し変だから詐欺だと気づけた」というケースが多くありました。 しかし、現在は「生成AI(人工知能)」が悪用され、ビジネス文書として完璧で自然な日本語のメールが送られてきます。
さらに恐ろしいことに、メールだけでなく、電話の「声」すらもAIで偽造できる(ディープフェイク音声)時代になっています。 社長や取引先の声をAIで真似るために、留守番電話のメッセージが悪用されることもあります。 「電話で声を聞いたから本物だ」という思い込みすら、危険なのです。
AIで作られた映像には「瞬きの回数が極端に少ない」「横を向くと顔が歪む」といった弱点があります。 しかし、技術は日々進化しています。最強の対策は、「家族や社員だけで通じる合言葉」を決めておくことです。「もし電話でお金の話が出たら、合言葉『愛犬のポチ』を言う」といったルールがあれば、AIも太刀打ちできません。
アナログな確認が最強の防御になります。 メールだけで振込先を変更してはいけません。

新しい制度や補助金の話が出ると、それに便乗する詐欺も必ず現れます。
「手数料を払えば、私たちが100%採択させます」という勧誘に加え、最近は以下のキーワードに注意が必要です。
補助金のルールでは、このような「実質無料」や「キャッシュバック」は禁止されていることがほとんどです。知らずに乗ってしまうと、不正受給(犯罪)の共犯とみなされ、補助金の返還だけでなく、会社名が公表されたり、罰則を受けたりする可能性があります。
2025年の法改正で、外注先のフリーランスや職人さん、退職した方も「公益通報者保護」の対象になりました。「不正受給なんてバレない」と甘く見ていると、内部事情を知る取引先から通報されるリスクが高まっています。コンプライアンス(法令遵守)は会社を守る盾です。
悪質な業者は、「申請手続きを代行するから」と言って、「GビズID(法人共通認証ID)」のIDとパスワードを聞き出そうとします。
これは絶対に教えてはいけません! GビズIDは、デジタル社会における「会社の実印」と同じです。これを渡すことは、会社の実印と印鑑証明書を赤の他人に預けるのと同じくらい危険です。勝手に別の申請をされたり、悪用されたりするリスクがあります。
「IDを教えてくれれば全部やります」という業者は、その時点でお断りしてください。

串本町は台風や地震のリスクと隣り合わせの地域です。そこにつけ込む悪質な業者も後を絶ちません。
「近くで工事をしている者ですが、お宅の屋根の瓦がずれているのが見えました」 そう言って親切心を装って訪問し、「今すぐ直さないと雨漏りする。火災保険で直せる」と言葉巧みに屋根に上がり込みます。 ひどい業者になると、屋根に上がってから自分で瓦を割って写真を撮り、「ほら、壊れていますよ」と高額な工事契約を迫るケースもあります。
「被災地に送る物資を集めているので、不要な靴や服があれば売ってくれませんか?」 そう言って家に上がり込み、服などは見向きもせず、「貴金属はないか」と強引に居座り、指輪などを二束三文で買い叩いていく手口です。

ここまで怖い話ばかりしてしまいましたが、対策は意外とシンプルです。 難しいIT知識や、高価な機器は必要ありません。以下の「5つの習慣」を今日から実践してください。

Windowsやスマートフォンの「アップデート(更新)」通知。面倒で後回しにしていませんか? 実は、詐欺師たちは「古いソフトの穴(脆弱性)」を狙って攻撃してきます。 特に、テレワークなどで使っている「VPN機器(通信機器)」の更新忘れが狙われています。
お店のWi-Fiに、出所不明の安価な機器(「海外のテレビがタダで見れる箱」など)を安易に接続しないでください。これらがウイルス感染の入口(踏み台)となり、お店全体のネットが乗っ取られる事例が増えています。

GoogleやAmazon、銀行のログインなどで、パスワードだけでなく、スマホに届く「認証コード」の入力を求められることがあります。
これを「多要素認証(または2段階認証)」と言います。 「いちいちスマホを見るのは面倒だ」と感じるかもしれませんが、これは最強の防具です。もしパスワードが盗まれても、あなたのスマホが手元になければ犯人はログインできないからです。

万が一、ウイルスに感染してパソコンが開けなくなっても、データが別の場所に残っていれば、業務は続けられます。 USB接続の外付けハードディスクなどに、定期的にデータをコピー(バックアップ)しておきましょう。
「データは人質に取られても、予備があるから大丈夫」と言える状態にしておくことが、心の余裕につながります。
「データが消えてもなんとかなる」と思っていませんか?警察庁の調査によると、バックアップがない状態でウイルス感染した場合、専門業者による復旧費用等は1,000万円以上にのぼるケースも珍しくありません。
会社の存続を脅かすこの出費を、わずか数千円〜数万円のハードディスクへのバックアップで防ぐことができます。

詐欺師は、とにかく皆さんを「焦らせ」ます。 「今すぐ払わないと裁判になる」「今日中に手続きが必要」……。
こう言われたら、一度深呼吸をして、電話を切ってください。 そして、「こんな電話があったんだけど」と、家族や従業員、商工会に話してください。
誰かに話した瞬間に、「あ、これ詐欺だ」と気づけることがほとんどです。 「一人で決めない」を会社のルールにしましょう。

いざという時、どこに電話すればいいか知っておくだけで、パニックを防げます。 以下の番号をメモして、電話機の横やパソコンの画面の端に貼っておきましょう。
可能であれば、偽の警告画面や怪しいメールをスマホのカメラで撮影(またはスクリーンショット)して、証拠を残してください。後で警察や商工会に相談する際、犯人を特定する重要な手がかりになります。
困ったときにネットで「〇〇サポートセンター 電話番号」と検索して、一番上に出てきた番号にいきなり電話するのは危険です。 詐欺業者がお金を払って、検索結果の一番上に「偽のサポート窓口」の広告を出していることがあります。必ず、手元の契約書や請求書にある番号を見てかけてください。

商売を長く続けてこられた皆さんの「信用」と「資産」は、長い時間をかけて築き上げられた大切なものです。 その大切なものを、画面の向こうの顔も見えない詐欺師に奪わせてはいけません。
デジタルの世界は便利ですが、落とし穴もあります。 でも、怖がりすぎる必要はありません。「手口を知る」こと、そして「一人で抱え込まない」ことで、被害は必ず防げます。
「これ、変だな?」「怖いな」と思ったら、パソコンの電源を切って、いつでも商工会へお越しください。 私たち職員は、ITの専門家ではないかもしれませんが、皆さんの隣で一緒に悩み、正しい対処法を調べることはできます。
これからも、串本の皆さんが安心して商売を続けられるよう、全力でサポートさせていただきます。
