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「人手が足りない」「求人を出しても応募がない」「良い人材が採用できない」。このような悩みを抱えている事業者の方は多いのではないでしょうか。特に串本町を含む新宮管内では、求人倍率が低いにもかかわらず、職種や条件のミスマッチにより採用が難しい状況が続いています。

串本町商工会では、和歌山県の最新雇用データを分析し、地域の特性を活かした人材確保のための具体的な対策をまとめました。この記事では、最新の求人動向から見える地域の現状と、中小企業・小規模事業者が今すぐ取り組める実践的な採用戦略をご紹介します。

この記事を読むことで、1)地域の雇用状況の実態がわかり、2)業種別の求人動向から今後の事業戦略のヒントが得られ、3)すぐに取り組める実践的な人材確保・定着策を知ることができます。

厳しい採用環境を乗り切るための「小さな一歩」を一緒に考えていきましょう。

令和7年2月の和歌山県全体の有効求人倍率(季節調整値)は1.11倍です。これは企業からの求人数が求職者数をわずかに上回っている状態です。しかし、地域別に見ると大きな差があります。

出典:
厚生労働省「令和7年2月分 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/001464624.pdf
・和歌山労働局「令和7年2月分 和歌山県の一般職業紹介状況」 https://jsite.mhlw.go.jp/wakayama-roudoukyoku/content/contents/002190446.pdf

串本町を含む新宮管内の有効求人倍率は0.89倍と県内で最も低く、1.0を下回っています。これは求職者の数が求人数を上回っている状態です。一般的には「求職者が多ければ採用しやすい」と思われがちですが、実際には職種や条件のミスマッチがあり、なかなか採用に結びつかないことが多いのです。

具体的なミスマッチとしては、企業が求める経験・スキルと求職者の持つ能力の不一致、勤務時間や雇用形態の希望の違い、さらに給与水準の期待差などが考えられます。特に観光関連産業や小売業では、土日祝日の勤務が必要なことが多く、これが求職者のニーズと合わないケースも考えられます。

一方、田辺管内(1.34倍)や御坊管内(1.34倍)は求人倍率が高く、企業間の人材獲得競争が激しい状況です。これは串本町を含む紀南地域の事業者が、他地域と比べて特殊な採用環境に置かれていることを示しています。求人数自体は少ないにもかかわらず採用が難しいという、一見矛盾した状況に直面しているのです。

重要ポイント

業種別の新規求人数を分析すると、成長分野と縮小分野がはっきりと分かれています。この傾向を理解することで、今後の事業展開や人材確保戦略を考える上での重要な指標となります。

医療・福祉分野は129人増(+8.2%)と堅調な伸びを示しています。これは高齢化社会の進展に伴う需要増加を反映しています。また、学術研究・専門・技術サービス業は84人増(+118.3%)と大幅に増加しています。この背景には、デジタル化の進展やスペースポート関連の準備が進んでいることが考えられます。サービス業も36人増(+6.6%)と安定した伸びを示しています。

一方で、宿泊業・飲食サービス業は188人減(-34.4%)と大幅に減少しています。観光客数の変動や人件費の上昇により、採用を抑制している事業者が多いと推測されます。また、卸売業・小売業も102人減(-13.7%)となっており、ECサイトの普及による実店舗の採用抑制傾向が見られます。さらに、不動産業・物品賃貸業は54人減(-52.9%)と半減しており、市場の停滞が影響していると考えられます。

こうした業種による差は、今後の事業展開を考える上でとても重要です。成長分野とのコラボレーションや、自社ビジネスの一部転換も視野に入れる必要があるかもしれません。

業種別の傾向

雇用形態の動向にも注目すべき変化が見られます。正社員の有効求人倍率は0.94倍と、前年同月比で0.06ポイント上昇しています。正社員の有効求人数は7,361人(前年同月比2.5%増)と増加する一方、正社員を希望する求職者数は7,866人(前年同月比3.9%減)と減少しています。

この傾向は、企業側が安定雇用を提供しようとする姿勢を強めていることを示しています。物価上昇や社会不安を背景に、求職者も安定した雇用を求める傾向が強まっているのです。一方でパートタイム求人は前年同月比10.9%減少しており、雇用形態の主軸が正社員にシフトしつつあることがわかります。

ただし、新規求職者のうち在職者(転職希望者)は886人と前年同月比12.2%減少しています。これは現在働いている人の転職意欲が低下していることを示しており、すでに就業している人材の獲得がより難しくなっていることを意味します。

厳しい採用環境の中でも、地域の特性や最新の労働市場の動向を踏まえた対策を講じることで、人材確保の可能性は広がります。当商工会でもさまざまな人材確保につながる取り組みを支援しています。

採用条件の見直しと給与以外の魅力づくり

大企業と同じ条件で競争するのではなく、地元の小規模事業者ならではの強みを活かした採用戦略が効果的です。給与面で大企業に及ばなくても、働きやすさや地域密着の良さをアピールすることで差別化ができます。

近年の最低賃金の引き上げに対応するための助成金も用意されていますので、ぜひご活用ください。この助成金は業務改善や生産性向上の取り組みを支援するもので、人材確保・定着にも役立ちます。

例えば、通勤時間の短さは大きな魅力です。都市部では片道1時間以上の通勤が当たり前ですが、串本町内であれば10分程度で通勤できるケースが多く、これは年間にすると膨大な時間とエネルギーの節約になります。また、小規模事業所ならではの意思決定の速さや、一人ひとりの意見が反映されやすい環境も大きなメリットです。

休憩時間を少し長めに設定し、昼食を家で食べられるようにするといった柔軟な働き方の提案も、従業員満足度を高める選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。こうした小さな工夫が、大手には真似できない魅力を作り出せる可能性があります。

給与以外の魅力づくりのポイント

採用ターゲットを従来の枠を超えて拡大する

従来の採用活動では対象としていなかった層にもアプローチを広げることで、新たな人材を確保できる可能性があります。

シニア層の活用は特に有効です。串本町には豊富な経験を持つ60代以上の方々が多く居住しています。完全な引退ではなく、週に数日程度の仕事を希望する方も少なくありません。シニア層の採用は、経験やスキルの獲得だけでなく、若手への技術伝承という点でも大きなメリットがあります。

また、子育てが一段落した主婦層も貴重な人材です。短時間勤務や学校行事に合わせた休暇取得など、柔軟な働き方を提案することで、高いスキルと責任感を持った人材を確保できる可能性があります。

さらに、近年増加しているUターン・Iターン希望者へのアプローチも効果的です。特にスペースポート紀伊の建設が進む中、串本町への関心は高まっています。都会での就業経験を持ちながらも、地方での穏やかな暮らしを求める方々は、即戦力として期待できます。

デジタル化と業務効率化で少人数でも運営できる体制づくり

人材確保が難しい今だからこそ、既存スタッフの負担を軽減し、少ない人数でも効率的に業務を回せる仕組みづくりが重要です。

POSシステムやタブレット端末による注文システムの導入は、特に小売業や飲食業で効果を発揮する可能性があります。タブレットでの注文システム導入により、ホールスタッフの業務効率化を図り、その結果生まれた余力をキッチン業務など他の部門に回すことで、全体的なサービス向上につなげるという方法が考えられます。

会計・在庫管理のクラウドサービス活用も効果的です。以前は専門知識が必要だった経理業務も、クラウド会計ソフトの導入により大幅に簡略化できます。これにより、専門スタッフの採用が難しい場合でも、少ない人数で正確な経理処理が可能になります。

実現可能な規模の事業者間連携から始める

企業間連携には、勉強会・研究会などの情報共有から、共同研究開発・共同ブランド開発・共同仕入・共同生産・共同販売まで、さまざまな形があります。特に地方の中小企業・小規模事業者にとって、連携は経営資源の不足を補い合う重要な手段になりえます。

▶みらさぽplus【事例から学ぶ!「企業間連携」

実際に地域の連携による共同配送は、物流コスト削減や人手不足対策として注目されています。ただし、いきなり大規模な連携を目指すのではなく、まずは近隣の同業種2〜3社での小規模な連携から始めるのが現実的です。例えば、配送ルートが重なる事業者同士で配送日を調整し、共同で配送するなどの小さな一歩から始めることが成功の鍵となります。

地域内での連携相手を見つけるためには、商工会議所・商工会などのセミナーや業界の勉強会・研究会などへの参加が有効です。また、よろず支援拠点などの専門機関が集まる相談会に参加することで、同じような課題を持つ事業者を紹介してもらえる可能性もあります。

事業者連携を始めるステップ

地域の特性を活かした未来戦略

最後に、串本町ならではの地域特性を活かした長期的な戦略も考えておく必要があります。

2025年からのスペースポート紀伊の本格稼働は、地域経済にとって大きなチャンスです。今から計画的に人材を育成することで、将来の需要に備えることができます。例えば、英語対応ができるスタッフの育成や、科学・宇宙関連の知識を持つガイドの養成など、新たな観光需要を見据えた人材育成が重要です。

また、串本町の豊かな自然環境や歴史文化は、地域の大きな魅力です。「海と宇宙を感じながら働ける町」といった地域ブランディングを確立することで、UIターン人材の吸引力も高まります。串本町の新たな地域振興の取り組みなども、地域の持続可能な発展と新たな雇用創出につながる可能性があります。

さらに、異業種連携による新たな可能性も追求すべきです。水産業とIT技術の連携により、鮮度管理の向上や販路拡大などが実現できれば、業務効率化と付加価値向上の両方が達成できるでしょう。また、観光業とテクノロジーを融合させた新しい体験型サービスの創出なども、今後の発展が期待できる分野です。

串本町の強みを活かす戦略

厳しい採用環境の中でも、地域の特性を活かした工夫で人材確保の可能性は広がります。重要なポイントは以下の通りです。

人材確保の課題は、一事業者だけで解決するのは難しいものです。地域の事業者同士の連携や、支援機関の活用が鍵となります。目の前の厳しさはありますが、地域の強みを活かした創意工夫で、この難局を乗り切っていきましょう。商工会としても、皆さんの取り組みを全力でサポートしていきます。


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